私の身内にサント・アントニオと呼ばれた男がいました。
もう何十年も前に他界してますが、未だに私に影響を与え続けています。
サントとは、英語でsaint 日本語では、聖というところでしょうか。
実際には、晩年の姿しか私は知りませんが、親からいろいろなことを聞いています。
彼は、私の人生の節々、例えば学校の入学、就職などには必ずもれなく、わざわざ正装して我が家を訪れお祝いの品を届けてくれて、ただただ激励してくれました。
そんな激励を受けているにもかかわらず、実際の私自身は、期待に応えるどころか、全く逆の落ちこぼれでした。
ちゃんとした教育を受けていない、アントニオは、私達に期待を託していたのです。
しかし、彼の成し遂げてきたことは、偉大です。
大農場を経営して成功した影には、アントニオの力があります。
教育も受けていないのに、全てをちゃんとこなしていたそうです。
すべての人、様々な国籍の使用人から同じように慕われ、自然とサント・アントニオと呼ばれるようになったそうです。
彼は、決して人を分け隔てしない人でした。
身内には、ブラジルの役人として要職に就いた者もいますが、実はそれを招き寄せたのも、アントニオです。
ただ、アントニオの人徳故に、知り合った要人から絶大な信頼を受け、アントニオは、弟たちを紹介したのでした。
残念なことに、その弟たちの口からその話を聞いたことがありません。
日本に、帰国した後も、アントニオは、常に働き続けました。
仕事は、単純労働です。そんな仕事で稼いだわずかなお金で私に、忘れずに私にお祝いをしてくれていたのです。
高齢になっても、彼は決して休まず働き続けました。
最後にした仕事は、清掃の仕事です。
私が、最後に彼を目にした時、ただ静かにタバコをくゆらしていました。
弟たちと違い、アントニオは決して多くを語りませんでした。
アントニオは、仕事から帰ってきた時に、必ず自分で「おかえりなさい」と言って家に入ってきました。
私も、真似てやっているのですが、決してアントニオのようなカッコよさは出ません。